こんにちは。XF56mmF1.2 Rを入手した岩崎です。
FUJIFILM Xユーザーなら、一度は検討しただろう 換算 85mm相当のポートレートレンズ。
購入する際に、悩んでしまうのが APD(アポダイゼーションフィルター)の有無ですが、最終的に APDではない無印版を愛用しています。
結論から言えば、どれだけ作品のイメージが確立されているかに尽きると思いますが、岩崎は無印版で大正解でした。
APDの影響により、ボケ以外にも違いが現れており、それらの特性も踏まえて選択することが望ましいです。明確な目的が定まっていない状況では、APDが裏目に出る恐れもあります。
ボケの美しさを求める一方で、明るさ不足 & 合焦遅れによる被写体ブレ、ISO高感UPによるノイズの増加などを招く場合があります。おまけに価格も高いとなると、汎用性の高い XF56mmF1.2 Rがベストバイではないでしょうか。

APDによる影響
この記事は、改めて 無印 APD版の魅力を伝えるべく書きつづりました。
ボケの滑らかだけに目を向ければ 当然 APD版ですが、APDを搭載することで、以下の違いが生まれます。
- 明るさが低下する
優先するのは ボケか ブレか - フォーカスが遅くなる
優先するのは ボケか 甘ピンか - コントラストが高くなる
優先するのは ボケか 柔らかさか
ポートレートに向けて APD版を検討される方も多いと思いますが、夕暮れ時の撮影、動く被写体、柔らかい描画などを想定した場合、APDによる不都合が発生する点も考慮する必要があります。
1. 明るさが低下する
優先するのは ボケか ブレか。

本来は F1.2の明るさを持つ大口径レンズですが、APD版の場合 F1.7相当まで明るさが落ちてしまいます。
検討時は APDのボケに魅了され、F値の差が気にならない状態ですが、冷静に考えれば 光量に倍以上の差があります。
明るさは正義。
それだけシャッタースピードを稼ぐことができますし、夕暮れ時の撮影などでも活用できます。
もちろん ISO感度で補うことができますが、滑らかなボケにノイズを足すのは本末転倒感が否めません。
2. フォーカスが遅くなる
優先するのは ボケか 甘ピンか。

APD版は、その特性上 像面位相差AFが利用できません。コントラストAFのみとなるため、オートフォーカスの速度が大幅に低下します。
(5)APDフィルターの影響で像面位相差AFは使用出来ません。AF動作は自動的にコントラストAFとなります。
インナーフォーカス式とはいえ、そこまで高速なレンズではないので、体感的に遅さを感じます。
人物撮影など動いている被写体への撮影時は、ピント合わせに苦労することになります。APDのボケを優先するあまり、甘ピンを量産する結果となってしまいます。
3. コントラストが高くなる
優先するのは ボケか 柔らかさか。

MTF特性曲線が示す通り、APD版の方がコントラストが高まります。
ボケの柔らかさを優先した結果、コントラストや解像度が高まってしまう点をどう捉えるか。
ただし、女性ポートレート撮影に関しては、コントラストが強すぎる印象を受けた。
女性ポートレートは開放のやわらかい描写を活かすことが多いと思うが、そうした撮り方をしたい場合は、XF 56mm F1.2 Rの方が使いやすいだろう。
高すぎない解像度も、XF56mmF1.2 Rの本来の魅力とも言えます。
中間色の表現力も FUJIFILMの強みであり、コントラストの高いレンズは良さを潰しかねません。
作品の方向性にも寄りますが、柔らかいポートレートを目指している場合 APDが裏目に出てしまいます。
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作例
百聞は一見にしかず。
分かりやすく、開放よりで撮影した作例を掲載しておきます。
ボケすぎて作品としてはイマイチですが、「非APDでも充分にボケる」ということが伝わればなによりです。
※ 写真は、すべて撮って出しでリサイズのみ。オリジナルデータは、注釈からダウンロード可能です。
まずはラーメン屋さんでの 1枚から。
開放 f/1.2で ピッチャーにピントを当てています。
手前に積まれているコップから 奥の黄色の布巾まで、とても柔らかくボケています。

次はテラス席にあったロウソクを撮影。
APD版では 玉ボケの輪郭がボヤけてしまうので、こういった撮影は 無印版ならでは。

距離が離れていても、被写体を浮き出させることができる F1.2の魅力。
明るさが F1.7相当に落ちてしまう APD版では、被写体を浮き出させる距離に限りが出てきます。


手前から奥にかけて、なだらかにボケていきながらも、ピントがあっている肘掛けは非常にシャープ。
少し落ち葉のボケにザワつきが感じられますが、先述するデメリットを踏まえれば充分な描画。


ツリーの飾りでボケ像干渉が発生し、少しザワついた感じになっています。
APD版なら滑らかなボケになり、煙突のシャープさも増すので、より立体感が生まれると思います。被写体も動かないので、こういった写真は APDの良さを活かせそうです。

そもそも玉ボケが玉ねぎボケになってしまうレンズなので、APD版であっても背景は同系色でまとめるのが望ましいです。
ただ、同系色でまとめれば、無印版でも非常に柔らかくボケます。
前ボケのステッカーもそこまで うるささを感じません。充分満足できる画質です。

F1.2の明るさを活かせば、ISO感度を上げなくても シャッタースピードをあげられるので、手持ちでも撮影しやすくなります。
もちろん、その分 口径食が出てしまいレモン型にはなってしまいますが、これは APDでも同様の課題。

しっかりとした玉ボケで、キラキラを活かした撮影も 非APD版ならでは。

ポートレートに最適と言われる 56mm(換算 85mm相当)なので、人物撮影にはベストマッチ。
ここまで大胆にボカしながらも、ピントの合っている部分は毛糸の 1本まで描画されています。

レモン型のボケを活かしながら、日の丸構図で撮影。
曇り空 & 日陰というシチュエーションですが、ISO400で 1/2200というシャッタースピードを確保できています。

逆光にも強く、光源を横から受けると良い感じにフレアが発生します。
いずれもレンズフードを利用していません。

開放の場合、玉ボケに輪郭が目立ちますが、少し絞ると目立たなくなります。
ただし、絞り羽が 7枚しかないため、場合によっては玉ボケに角が立ってきます。

絞った際の光芒も、均一で綺麗です。
こちらも手持ち撮影ですが、奥の建物や看板まで、しっかりと解像し描画されています。

モノクロでも撮影。
合焦しているゴミ箱やアスファルトのゴツゴツした感じから、背景にかけての なだらかなボケが良い雰囲気を出しています。

まとめ

購入してから 2年以上、毎日のように利用していますが、大変満足しています。
「APD版が良かったな」と思うことよりも、「無印 APD版だったから撮影できた」と感じる機会のほうが沢山ありました。
作例の通り、非APD版でも充分なボケが得られます。
ついつい APDの「滑らかなボケ」に目が行ってしまいがちですが、APDを搭載することによる影響を鑑みると、手放しで APD版を選択することは難しいと思います。
月刊カメラマンの「プロ写真家 & 識者が認める 神レンズ」の特集でも、同様の記載がありました。
APD版のレンズも、それはそれは素晴らしいけれど「素のレンズ」でも十分以上にボケはキレイだし、像面位相差AFで快速快適な撮影が楽しめる。APD版は実効F値やAF速度で失うものがそれなりにあります。色々天秤に掛けると素がオススメ!
多くの方は APDによるボケの違いよりも、手ぶれや甘ピンの方が敏感です。ポートレートでの利用を検討しているのであれば、フォーカスの速さも重要です。汎用性が高い 非APD版のほうが、圧倒的に写真の出来高は多いです。
人物を撮影が中心の場合、AFが遅いからと被写体の方に待ってもらったり、ピントずれやブレの多い写真を量産するわけにもいきません。
家族写真や物撮りなどであれば問題ないと思いますが、特に女性ポートレートの撮影が多いのであれば、中間色が豊かな無印版を推奨致します。
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